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アイリーネの手が止まる。
「はくしゃくさまとおけいこされているのを、なんどかおみかけしました。あんなにすばやくうごけるなんて、すごいですね……!」
「あ、ありがとう。……でも」
父から告げられた言葉が、アイリーネに重く圧し掛かる。
「わたしは、おとこのこじゃないし……」
ルーディカはきょとんとした。
「おんなのこだって、きしになれますよね?」
はっとしたアイリーネがルーディカを見ると、屈託のない笑顔を浮かべていた。
「きょねん、フォルザをとおっていかれたきしだんに、じょせいのきしさまがおられたのですが、りんとしていて、とってもすてきでした! アイリさまもきっと、あんなふうになられるんでしょうね……!」
無邪気な期待に満ちたルーディカの笑みが、雲の切れ間から射す光のようにアイリーネの心を照らしていく。
「……おんなのこだってきしに……そうだよね……」
父や姉たちが何と言おうと、女子にも門戸は開かれている。
しおれかけていた希望が再びぐんぐんと生気を取り戻していくのを感じ、アイリーネはきりっと視線を上げた。
「わたし、しょうらい、ぜったいきしになる!」
力強い宣言につられたように、ルーディカも嬉しそうに後に続く。
「わたしも、とにかく、ひとびとのおやくにたつひとになります!」
決意表明をしたふたりはすっきりした顔で微笑み合い、再び手を動かし始めた。
「――ねえルーディカ、これからはときどきいっしょにあそぼうよ」
「いいんですか?」
「いそがしいときや、ほんをよみたいときは、じゃましないからね」
木陰で読書しているルーディカを、アイリーネは幾度となく遠くから見かけたことがある。
「わたしは、むずかしいほんをひらくとすぐにねむくなっちゃうんだけど……あっ、そうだ」
アイリーネは声を弾ませた。
「わたしのおさななじみに、どくしょがすきなこがいるよ!」
「そうなんですか?」
「うん、おべんきょうもよくできるから、らいねんから、かみさまにつかえるひとになるためのがっこうにいくんだって」
「えっ、すごいですね……!」
神学校に入るためには、幼くして難しい試験に通らなくてはならない。
「ながいおやすみのときに、そのこをフォルザにさそってみるね! ほんがすきなこどうしで、たくさんはなすといいよ」
「わあ……たのしみです!」
その子と出会ったとたん運命の恋に落ちることなど予見できるはずもなく、ルーディカは天真爛漫に青い瞳を輝かせた。
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