2 恋はまるで星のようで

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「え……」  ぽかんとしたアイリーネを見て、オディーナは可笑しそうな顔をした。 「『私が恋するの?』みたいな顔ねえ」 「だ、だって」 「乗り換えろなんて言うつもりはないけど、キールトにはそういった感情が持てないのなら、結婚はまだ先なんだし、誰かにちょっとドキドキするくらいは罪にならないんじゃないかしら」 「えぇ……」  困惑するアイリーネに向かって、オディーナは声を大にした。 「ときめきは、心の栄養になるわよお?」 「オディにとってはそうなんだろうけど……」  遠巻きに眺めてはうっとりするだけの片想いばかりだが、オディーナはしょっちゅう誰かを好きになっている。 「いまオディが夢中なのは、侯爵家の新しい御者さんだっけ?」 「そう! ファオ・イーガーさま……!」  オディーナはぽっと頬を染めた。 「わたしって、暗めの髪色のかたに弱いみたい」  オディーナの豊富な片恋遍歴を事細かに遡るのは至難の業だが、春先には伯父を訪ねてきた侯爵の甥に一目惚れをし、その前の冬には剣の指南のため一週間ほど滞在していた若い騎士に熱を上げていたことくらいは、アイリーネにも思い出せる。 「イーガーさまがお役目に就かれて一週間、まだまだ緊張感でいっぱいなところを見ると陰ながら応援したくなるし、わたしもがんばろうって思えてくるのよね」 〝心の栄養〟と言うだけあって、想い人のことを語るときのオディーナは、きらきらしている。  アイリーネにとって、ルーディカとキールトが一緒にいるときに発する輝きは特別だが、恋するオディーナもまた眩しかった。 「だから、アイリにもぜひ……」 「楽しそうだとは思うけど、私は恋しなくていいや」 「えーっ」  アイリーネはそれよりも、騎士として揺るぎない実力を早く身につけたい。  将来、幼なじみたちの恋が無事に成就して偽の婚約を解消したとき、「私はずっと騎士として生きていく」と、胸を張って父たちに宣言できるようになっておきたいのだ。 「んー……まあ、恋なんて無理にするものでもないわよねえ」  理解を示しつつも、オディーナはまだ少し諦めきれない様子だった。 「でも、幼なじみものの恋愛小説みたいに、大人になったらキールトにドキドキしちゃったりするかもよ?」  それはないと確信しているアイリーネは、曖昧な微笑みを返す。  (まばゆ)く煌めいているが、夜空を飾る星のように遠いところにあり、自らの手で触れようとは思わないもの。それがアイリーネにとっての〝恋〟だった。    ◇  ◇  ◇
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