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3 初めての仲たがい
「よっしゃあぁー! 週末だああぁ」
晩鐘とともに訓練が終わると、同期の騎士オルボー・コーレッグが歓喜の雄叫びを上げた。
「今日は野薔薇館が月に一度の割引日だぞ! 当番じゃねえやつは繰り出そうぜ!」
オルボーは、「なんなら俺が先に行って予約を入れといてやるぞお」と張り切って希望者を募り出した。
「割引あるんすか? 行きたいっす」
「オルボー、俺も頼む」
「ブルーラちゃん、空いてっかなあ」
「あー、俺は海猫館の方に行くわ」
休前日の高揚感から、同僚たちの声は一様にうきうきと弾んでいる。
野薔薇館や海猫館は、駐屯地近くの花街にある娼館の名前だ。
騎士となってエルトウィンに配属されて二度目の初夏。アイリーネはこのような週末の雰囲気にもすっかり慣れていた。
周辺の治安を守るため夜の街を巡回することもあるので、野薔薇館には愛嬌たっぷりのぴちぴちした可愛らしい娘さんが多く、海猫館には大人の色気あふれるお姉さんが多いということまで知っていたりもする。
「ヴィルさんに、プルーズ、イリーさんも行きますよね? あとは、ヤルヴィ、メッツァ、それからキールトは――」
片っ端から呼び掛けていた勢いで、目に映った同期の騎士の名前もつい口にしてしまったオルボーは、すぐに半笑いで打ち消した。
「行くわけねーよな」
アイリーネと一緒に後片づけをしていたキールトは、軽く微笑みながらオルボーの方を向く。
「そうだな」
オルボーはアイリーネをちらりと見て、からかうような口調で言った。
「怖え婚約者がいつも一緒ってのも、考えもんだなあ」
「誰が怖いって?」
構って欲しいのが見え見えの同僚をアイリーネが大げさに睨んでやると、オルボーは嬉しそうにガハハと笑う。
「アイリ、キールトが浮ついた奴じゃなくて良かったな。実は、巡回のときにキールトに秋波を送ってくる花街のおねーさんも結構いるんだぜ?」
「へえ……」
思わず感心したようにアイリーネが幼なじみに目をやると、キールトは困ったように視線を逸らした。
「野薔薇館で一番人気のレフティネちゃんだって、『あの若い銀髪の騎士さまを連れてきてよお』って、しょっちゅう俺におねだりしてくるくらいだしな」
オルボーの発言を聞きつけた隊員たちが、一斉にどよめく。
「あのレフティネちゃんが!?」
「うーわー、レフティネさんて面食いなのかよー」
「いつも指名がいっぱいで、なかなか手合わせしてもらえねえのに」
「いいなあ、キールト」
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