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シチューを食器に注ぎ、テーブルに置く。
何気なくテレビを見た。
人気ロックバンドのメンバーが先週亡くなったと報道されていた。それに便乗して、ファンの女子高生が後追い自殺をしたと報じている。
なんとまぁ。悲しいこと。
好きな人の後を追う。
それがあなた達の愛のカタチなのだろうか。
チカチカと光るテレビのコントランスが目に残像を残す。
屋上から落ちる百合の笑顔を思い出す。
それがあなたの愛なのね。
「白取さん。あなたの愛は見せてもらったわ」
でもね。私だって負けてはいない。
「私は薫と共にあることが愛のカタチなの」
どうゆうことかわかる?
いるのよ。ここに。
私の中で彼は一緒にいる。
あるいは、この手の中に、足の先に、胸の中に。
彼は私の血肉になり、栄養になり、そしてエネルギーとして消費される。
わかる? この一体感。
彼と私が混じり合ってるの。
でも彼と一緒なのも、これが最後。
私の中で彼がすべて消化されてしまった時。
私達の決別が来る。
悲しいわ。薫。
虚しい。寂しい。
でも。
それまでは一緒なのよ。
愛してるわ。薫。
私はシチューをスプーンで掬う。
カチン。
っと金属の触れる音がした。
こんな所にあったのね。薫のピンキーリング。
それを手に取り、私は左の薬指に着けた。
私と薫のピンキーリングが仲良く寄り添っているように見えて、私の心は満たされる。
愛のカタチは人それぞれ。
シチューの中には、ぷかぷかと浮く肉の塊。
ふふっと私は笑う。
シチューを食べる。
「う〜ん。美味しい」
完
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