愛するカタチ

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*** 「うぇっく。男なんてね。可愛い女が現れたら、すぐクラって来ちゃうのよ」 「優香。飲み過ぎだって」 「はぁん。美怜、あんた男を取られたのよ。もっと怒りなさいよ。すみません生チュウ、もう一本」 ごった返す焼き鳥店。煙が立ち込める店内。広告代理店で働く同僚の優香は顔を真っ赤にしてグラスを片手に目を座らせた。隣の席の若い女の子達が、やけに騒がしく、私は顔を顰める。 「だって、子供が出来たなんて言われたらさ」 「それで引き下がっちゃた訳?」 「仕方がないでしょう」 「あぁ。もう腹が立つ。薫さんって見た目、大人しそうでしっかりしてそうだったのに、所詮、男よ。若くて可愛い女に騙されやがって。ヒック。私はあなたがいないと駄目なのなんて言われたのよ、相手の女に」 私は枝豆を摘み、ぷちぷち出して食べる。 ご名答よ。 『あいつには俺がいないとダメなんだ。お前は強いから一人でも平気だろう』 それが最後の薫の言葉だった。 「一気。一気」なんて声が隣から聞こえてくる。 五月蝿い。 薫はとてもおっとりとした人だった。浮気なんて絶対しない。真面目で切実な性格で、私もそんな薫に惹かていた。 それなのに20歳の女と浮気をしていたとは……。 「はい。お待ち」 なんの悩みも無さそうな、よく日に焼けた青年が、ニコリと笑ってビールを渡す。私はビールを奪うように取ると、一気に飲み干した。 「旨い」 どんっと空のジョッキを机に置く。 「あー。私の酒」 優香の不満顔を横目に、私は口に付いた泡を手の甲で拭った。 薫は決して軽薄な男では無かった。 彼との出会いはクライアント企業の広告を通してだった。
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