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季節はバレンタイン。某大手デパートで働く薫はバレンタイン特集を受け持ち、私はその企画をビジネス展開して宣伝活動をしていた。
薫と何度も打ち合わせし連絡を取り合った。私は売上重視で考えていた。しかし
『ここの店のチョコレートは有名ではないが、とても上質なんだ、安く売りたくない』
熱く語る薫。
『でも売上を考えると安くするべきだと思う』
『それなら試食会をしてみればいい、物がいいとわかれば、自然とお客様がつくと思う。お願いします。どうか考えて頂けないでしょうか』
真剣な取り組み。こんなに真面目な人がいるんだと驚いた。そんな情熱に私はクライアント以上の感情を抱き、薫に告白した。薫もはにかんだ表情を見せ「俺も」と受け入れてくれた。
その顔が、とても可愛いくて、愛しいと思えた。
あれから8年。そろそろ結婚かなぁ、なんて呑気に思っていた所にガツンっと食らわされた。
嫌になる。
「──薫さんが選んだあの女、クライアントで見たことあるわよ。男の前になると喋り方は変わるし、仕草も上目遣いして、あれは計算高い女よ」
かもしれない。
薫の会社の後輩だとかで、たまに見かけた。
『容量が悪くって、教えてあげないと駄目なんだ』
なんて薫はよく言っていた。
あの時点で気づくべきだった。
「すみません、生チュウ追加で」
「ちょっと、優香、本当に飲み過ぎ」
「あぁん、そうゆう美怜も食べ過ぎ」
すでに私のお皿には串が30本。
どんなに悲しくてもムカついても腹は減る。
それに食べなきゃ、やってられない。
まったく。子供がいるんじゃ。勝てっこないもの。
「すみません。ねぎま5本下さい」
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