10人が本棚に入れています
本棚に追加
***
寒さが急に冷え込んできた11月20日。
その日は生憎の雨。私の誕生日。29歳になってしまった。
去年の今頃は薫と過ごしていた。ご馳走を私が作り、ケーキを薫が買ってきてくれた。ルビーのお揃いのピンキーリング。嬉しかったな。
「寒」
それにしても何もこんな日に雨じゃなくもいいじゃないだろうか。
雨粒を弾かせていた傘を閉じると、先から水が滴り落ちる。マンションの入り口で私は体に着いた雨粒を払い除けた。
エレベーターに乗り込む。
2階の親子連れが入ってくる。「お母さん」と嬉しそうに3歳くらいの子供が笑った。ちんっと2階に着くと母親は簡単な会釈を私にする。「バイバイ」っと子供は可愛いらしく手を振ってくれた。
子供か。
母からそろそろ孫が見たいと催促の電話がくるようになった。
まったく人の気も知らずに簡単に言ってくれる。
私は5階で降りた。
「今日はやけに寒いな」
──あれ。
家の前のポストにB5サイズの紙が挟まっていた。なんかの広告だろうっと手に取ると湿気のせいで、紙はへにょへにょに傾いた。
「ああ。もう鬱陶しい」
紙を伸ばして見ると内容に私は、ぎょっとした。
――返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ――
「なにこれ」
私は顔を顰め、周りを伺った。誰もいない。雨音だけが聞こえる。道路を車が通り水を跳ねていた。
「悪戯? 立ちが悪い」
私は紙を握りしめ部屋に入るなりゴミ箱に捨てた。
「とんだ誕生日だわ」
泥水を掻き回すような不穏感がゆっくり近づいてくる。
その日から私の日常で変な事が起こりだした。
最初のコメントを投稿しよう!