始まり

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 この辺りは横須賀市内でもメインストリートと言ってもよい場所なのに、八時半の時点で人っ子一人居ないのだ。  勿論コンビニの店内にも誰も居ない。 「えっ?・・・」 「嘘だろ・・・」 「これどういうこと?」  出てくるのはアホみたいな台詞ばかりで、その後にじゅわじゅわと焦りや不安が押し寄せてくる。  これは夢か幻に違いないと、自分の中で折り合いをつけようとしても、そうではないことは実感として答えは出ているので、もうその考えは捨て、これを事実として受け止め、この世界でどう行動すべきか冷静に考えなければならない。  そう整理がついた途端、呆れるほど馬鹿げていて、それでいてシンプルな考えが導き出された。 「家に帰ろう」  家と言っても、実家ではなく、昨日まで住んでいた追浜の山の上にあるアパートだ。  愛車のスーパーカブ110でもやっとこ上ってゆける坂道の上にあり、自分以外の住人はベトナムの技能実習生しかいない、あのアパート。  世の中から人が消えたとしても、あのアパートはあるだろう。  タワーマンションの近くにある駐輪場に行くと、そこには当たり前のように自分の愛車、メタルブルーのスーパーカブ110が置かれている。  ヘルメットを被り、キーを差し込みスターターボタンを押す、あまりにも日常の行為を平常な神経のままこなすと、俺は国道16号を横浜方面へ走らせた。    この世の全てはなくなってしまえばいい、そんな考えが現実になった訳だ・・・  俺は・・・  高田アタルは、自分が作り出したかのような世界を、ただ走り出したのだ。  国道16号は汐入駅方面から緩やかに上り、すぐトンネルが現れる。  それを抜けると逸見という町になるのだが、それもつかの間、新たなトンネルが現れ、すぐに次のトンネルに入り込み、またトンネル。  それが横須賀の国道16号線だ、横須賀だけで10数個のトンネルがあろうか。  それだけこの土地が小高い山々で囲まれているということなのだが、この繰り返される入り口と出口を通るたび、高田アタルは思う。 「人生辛くてもいつか出口はくる。だって出口のないトンネルなんてないでしょ」  なんていうよくある励ましの言葉、人生悟ったかのようにああいう事を言うヤツに、横須賀の16号を走らせてやりたい、アタルはいつもそう思う。 「俺の人生はなぁ国道16号!暗いトンネルを抜けたらまたトンネルが現れ、それを過ぎたら又トンネル、そんな人生もあるんだよ」  アタルのこれまでは全く、国道16号のようであった。
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