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「だとすると、どうあがいてもこの妙な世界から出ることは出来ないってことになりますよね・・・」
「そうよ、私だって色々試したわよ!すぐ下に歩行者トンネルがあるんだけど、そこを通り抜けたら全く別の所へ出たの、それは何回やっても違うところだったわ」
横須賀はトンネルの街である。ただトンネルが多いだけではなく、突然隆起する山を突っ切るため掘られた歩行者専用トンネルが、郊外の至る所に張り巡らされ、住人の移動を補っている。
のの字坂を下ってすぐの所にも、隣の町内へ抜ける「かなかまトンネル」という百メートル足らずの歩行者と自転車だけが通行できるトンネルがある。
中島浩子は、最初何気なくかまなかトンネルを通り抜けて見たところ、全く別の町内のトンネルの出口に抜けてしまい、何度繰り返しても別のトンネルへ出てしまうのだという、その現象も彼女が「ジャイアントヘッド」を、ある人間が作り出した巨大な脳の中だという説の根拠になっているのだろう。
アタルは少し呆然と、ループ状の坂に架かる橋を眺めていた。
「だとしたら・・・あと何人か、この世界にいるんですかね・・・」
アタルは半分以上無意識に、そんなことを口に出していた。
あぶれ者なら、最初に会った男を含め、三人だけというのは、あまりにも悲しすぎるじゃないか、アタルは、もしこの世が数人だけの世界になってしまったとしても、ただ一点に止まっているつもりはなかった。 他に「あぶれ者」がいるのなら、その者にも会ってみたい、漠然と想ったアタルを察したのか、それとも中島浩子が二人だけの空間に居心地の悪さを感じたのか、浩子はアタルを見つめた。
「ここを上がって、道なりに行くと、安針台の集合マンションがあるんだけど、そこを根城にしているヤツがいるらしいわ・・・興味があるなら行ってみれば」
アタルは自分の心を見透かしているような浩子に、不自然さも違和感も感じなかった。
何故なら、いまいる環境じたいが不自然であり、違和感しかないからである。
アタルは立ち上がると、浩子に軽く会釈をして、ありがとうとだけ言うと、バイクを走らせた。
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