砦に住む男

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砦に住む男

        砦に住む男  のの字坂を登り、道なりに行くと転々と民家があり、民家がとぎれると道は一段と細くなる。  安針塚公園の敷地だ。    安針塚とは徳川家康時代に日本に漂着し、その後家康の外交顧問となったイギリス人航海士で、三浦按針と名乗り、この地域一帯を納め、亡くなった後にこの高台に墓をたてた事から「安針塚」という地名になったのだ。  なんて事はアタルの知るところではない。  とにかく稜線に沿うように細長い公園の歩道をバイクで南下すると、やがて道は急に下り、高速道路を横に見ながら、その下をくぐってゆく。 「当たり前だけど、車の通りがまるでない高速道路は不気味だ」  と考えつつも、アタルの思考の奥では、今度あそこをバイクで走って見るのも面白いかもな・・・  などと、なんの緊迫感もない考えが浮かんでもいた。  高速道路をくぐると、なだらかな斜面に沿うように10棟ちかくのマンション群が現れる。  この中のどこかに、浩子が言っていた男が住んでいるのか?  と、思った時、目の前を人影がよぎった。 「何!」  短く叫んだときには、アタルはバイクごと路面に倒れていた。 「なんだよオイ・・・」  痛みに耐えながら、立ち上がり、ヘルメットを取った次の瞬間、何者かがアタルの後頭部を、鈍器のようなモノで殴りつけて来た。  アタルは鈍い鈍痛と脳内で鳴り響く反響音の中、意識を失ってしまった。
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