砦に住む男

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   「オイ!オイ!」  背中を何者かが小突くように蹴っている。  なんとなく感覚でどこかに運ばれて来たことは理解出来たが、とにかく頭が痛い、床に寝転んでいるのにも関わらず、目眩のように身体全体が船底にいるかのように揺れている感覚に襲われていた。 「オイ!コイツ気がついたか?」 「死んでなかったか?」 「死ぬほどぶん殴ったのか?」 「いや、それほどはやってないはずだけど・・・」 「まったく、コイツ何者だ」 「ジャイアントヘッドの手先なんじゃねぇの」 「わからん・・・そこん所はコイツに聞いてみないとな」  「ジャイアントヘッド」という単語を聞くと、アタルの身体は自然と反応し、短い咳払いが出た。 「オイ!気は確かか?」  気は確かかって?アンタらが殴っておいてその言いようはなんだ。  アタルは、頭痛による不快感と、目の前にいる者達への不快感で、唸りながら眉間に皺をよせた。 「立ち上がれるか?」 「吐きそう・・・」  アタルは額に手を当てながら、薄目を開け、問いかけてきた男の方をみてみた。  二十代半ばから三十代とみられる。神経質そうな痩せ型の男が無表情で、床に転がっているアタルを見下ろしている。  その横には二十代前半であろう、短髪の大男が立っている。 「痩せがボスで、大男が俺を殴った奴だな」  などと、それなりの推理を巡らせていると、痩せ型のリーダー格であろう男が、アタルの目の前にしゃがみ、無表情な顔を近づけてきた。 「お前、何処からきた?」 「オレは・・・たかだ・・・高田アタルだ・・・」 「名前なんか聞いてないんだよ・・・お前はどこから来たって聞いてるの」  アタルは額を押さえながら、半身を起こし、痩せ型の男を寝起きのような表情で見た。 「何処から来たと言われても・・・ここに来る前はのの字坂の、中島浩子って人のとこにいて・・・」  痩せ型の男は、中島浩子の名前を聞くと、少し表情を強ばらせた。 (中島さんは、会ったこともないみたいに言ってたけど、この痩せと知り合いなんだな・・・)  アタルは考えながら、ゆっくりと正座をして、もう一度男をしっかりと見つめてみた。  痩せ型の男も、隣にいる大男も、よく見るとさほど暴力的な人間ではなさそうである。が、二人の表情や動きから、まだアタルに対しての警戒心を緩めてはいないことは、なんとなく理解出来た。 「じゃあ、あの女の手先か?」 「手先?そんなんじゃないけど・・・」 「お前、ジャイアントヘッドを知ってるか?」  大男がアタルのすぐ後ろに椅子を運びながら言った。  アタルはゆっくりと置かれた椅子に腰をかけ、もう一度当てつけがましく額に手を当てて見せる。  すると大男は、鋭い目でアタルを見ながらも、口をへの字に曲げて、多少申し訳なさそうなにため息を吐いた。 「ジャイアントヘッド・・・ってのは、中島さんに会って初めて聞いたけど、ホントは何なんです?」 「あの女の言ってることはデタラメだよ、こっちこれるか?」  痩せ型の男は、アタルを窓側へ手招いた。  外を見渡せるはずの窓ガラスは、丁寧に段ボールで目張りされていて、外を見ることは出来ないが、アタルが窓際までヨロヨロとやってくると、ほんの少し窓を開け、外を見るように促された。  どうやらここはマンションの最上階らしく、長浦港から、横須賀の自衛隊基地や、米軍基地の方角まで見渡せる。 「あそこに大きなタンカーがあるのが見えるか?」  確かに少し沖合に大型のタンカーが停泊している。 「そして、その少し前に自衛隊の軍艦がとまっているだろ?」 「確かに・・・」  正確には「軍艦」ではなく「護衛艦」と呼ぶのが正しいようだが、そんな事はこの際どうでもよい。  その、護衛艦はタンカーより前方というよりも、かなり陸側に停泊しているように見える。 「奴らは俺たちを監視しているんだ」 「えっ?」  アタルは、我ながら素っ頓狂な声を上げ、もう一度海の方を見た。 「自衛隊に、監視されてるの?俺たち?」 「自衛隊かどうかは分からないが、あのタンカーには巨大ロボが搭載されている」 「きょ!!!」 (巨大ロボ!コイツら何を言ってるんだ!のの字坂の女より訳がわかんねぇ!!!)
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