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突然アタルが妙な声を上げたので、痩せ型の男が険しい顔で窓を閉めた。
「何大きな声出してるんだよ!」
「だって、巨大ロボとか言うから」
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ!」
大男もいたって真面目にアタルを睨み付けてきた。
「俺達が不審な動きをすると、あのタンカーのハッチが開いて、ジャイアントヘッドが全ての物を壊してしまうんだ・・・」
「ジャイアントヘッド!え?というと、その巨大ロボがジャイアントヘッドだってこと?」
なんだか無茶苦茶な話をするなぁ、なんておもっていると、痩せ型の男も大男も、大真面目に頷いてみせた。
どうやらこの男達の中では、この突飛な話も、現実なのだろう、誰もがある朝目覚めると、知り合いも近所のお節介な親父も、街を行く人も消えてしまっていたら、作り上げた非現実に逃げ込んでしまいたいのは分からないでもない。
「ところでアンタ、さっきから何か不自然だと思わないか?」
痩せ型の男が、話題を変えてきたが、アタルにしてみれば、ここに来てからの全てが違和感だらけでだ、バイクを倒されて頭を殴られ、どこか知らない部屋に連れ込まれたかと思えば、そこにいた二人は、大真面目に巨大ロボ「ジャイアントヘッド」の存在を信じている。
これ以上何処に不自然さがあるっていうんだ。
「上」
痩せ男は、天井を指さした。
それにつられ、アタルも天井を見上げたが、なんの事やらさっぱり理解が出来ない。
「アンタ本当に鈍感だなぁ」
大男の方が嫌みな感じで言うと、痩せ男は今までの無表情を少しだけ崩して、柔らかい語り口でアタルに説明を始めた。
「電気だよ・・・なんでこんな世界で電気が付いてるのか、不自然に思わない?」
確かに、そう言われれば、全ての窓を段ボールで目張りしたこの部屋が明るいのは、不自然と言われれば不自然であった。
「でもさ、ジャイアントヘッドっていうのは、ロボットでしょ、そのロボットがここに電気を送って来ているの?」
「いや、ジャイアントヘッドというのは、そのロボの名前でもあり、あの組織の名前でもあるんだ」
「えっ?自衛隊じゃなく?」
「自衛隊が巨大ロボを作っている訳ないだろ!」
イヤイヤ、自衛隊以外でも巨大ロボは作らないよ、普通、と言いたいのを、アタルはかみ殺した。
「世界をこんな風にしてしまったのも、ジャイアントヘッド、この世界を無に出来る力があるのもジャイアントヘッドなんだ」
「ところで・・・君たちは、見たことあるの?そのジャイアントヘッドってヤツを」
アタルの言葉に、二人はほぼ同時に呆れたような顔をこちらに向けた。
「あのさ、ジャイアントヘッドを見てしまったらそれは、この世界から消されるって事、ジャイアントヘッドに逆らえば、この世界が消えてしまうってこと」
大男はその言葉尻に「常識でしょ」と付けたかったような表情で、アタルを憐れむように見ている。
こんなことでは、コイツはすぐに消されるな、と大男は思っていたのだ。
「組織のジャイアントヘッドもロボットのジャイアントヘッドも目撃してしまったら、それが最後。じゃ、何故見たこともない、ロボや組織を信じているのか、それは、俺が話してやろう・・・」
痩せ男はそういうと、部屋の端に置かれた一人がけのソファーに深く腰をおろした。
「どうせ時間は腐るほどある」
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