001

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 棺桶の中には父を殺して成り代わった男が入っていた。  色白い顔。  病気でやせ細った体。 「なんでこんなになるまで言わなかったのよ、馬鹿」  私の瞳から涙がこぼれ落ちる。  ここには私以外誰もいない。  この人を知る人も、慕う人も。 「これで本当に最後なんだね」  そう最後の別れ。  彼は父を殺して成り代わった男だ。  私は小学校の頃、母親に捨てられた。  親戚の家をたらい回しにされ、行き場のなくなった私は父を探した。  ようやく父の名を見つけ会いに行くと、彼がいた。  彼は自分は私の父ではないと言う。  私の父を数年前に殺し、戸籍のなかった自分が成り代わったのだと。  にわかには信じられない話だった。  しかし彼は秘密を知った以上は帰せないと、私を監禁した。  そう監禁。  ご飯を与え、風呂に入れ、一緒に寝る。  そして学校へ行くのを見送り、自分は仕事に行く。  彼が暇な時は一緒にゲームで遊び、クリスマスには小さなプレゼントをくれた。  決して裕福ではない、それでいて奇妙な生活。  私はどこで暮らしてきた時よりも、幸せで、まともな人間としての生活を送ることが出来た。 「知ってたよ、私はずっと知ってた。でも知ってて、付き合ってあげたんだから感謝してよね」  彼が自分の本当の父親だということは、もうずっと前から知っていた。  知っていて、彼の嘘に付き合っていたのだ。  元々、母と離婚する時に私を置いて行ってしまった自責の念から、娘に憎まれる役を演じていたんだと、なんとなく分かっていた。  でも彼がそうしたいなら、私も最後まで付き合おう。  誰よりも優しくしてくれた父の願いを、私も叶えたかったから。 「だから、ね。最後だから、もういいよね。……大好きだったよ、お父さん。ずっと傍にいてくれてありがとう。私をここまで育ててくれてありがとう。もう演じなくてもいいんだよ。だからゆっくり休んでね」  父を殺した男。  父を殺した男に監禁されるその娘。  私たちは今やっとその役を降りることができるのだから。  
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