今夜、私は好きな子にお別れを告げます。

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 この子は佳奈実(かなみ)ちゃん。香梨の一人娘。妹の娘だから、私――香純(かすみ)にとっての姪。今年で中学二年生。妹に似て、地味で真面目な子。  それなのに、 「そういえば、今日も学校に行かなかったでしょ」 「……うん」  責められているように思ったのか、佳奈実は申し訳無さそうに頷いた。 真面目で病気以外では学校を休んだことなんて無かったらしい佳奈実だが、ここ数ヶ月は休みがちになり、最近では一週間の半分は家にいる。 「どうして、行かないの?」 「あー……」  私が尋ねると、佳奈実は言い淀んで、あからさまに目を泳がせながら言い訳を探した。しかし、見つからなかったのか、 「今日はやめたの」  と無理やりぎこちない笑顔を作って、開き直った。  学校をずる休みするという、クラスメイトのみんなと違うことにまだ罪悪感を感じているのだろう。そんな後ろめたいなら、しなければいいのに。  学校に行かない理由は何度か尋ねたが、今のように「やめたの」だとか「やる気がでない」と誤魔化されてばかりで、本当のところは教えてくれない。 「そっか」  しかし、私の出しゃばるところではない。佳奈実の母親は香梨であって、私じゃないんだから。 「イケナイ子。不良だ」  それならば、私は佳奈実の心を少しでも軽くしてあげよう、とニンマリといたずらに笑ってみせた。すると、佳奈実は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに笑って「そうなの。わたしは不良なの」とおどけた。  その物言いがおかしくて、二人して笑ってしまう。  数年、連絡もせず突然現れて、すでに結婚して子供までいる妹の家に間借りさせてくれなんて、歓迎されるはずがない。常識がないと自覚している私でも流石に察せる。それなのに、佳奈実だけは私に歓迎してくれた。  大人の事情ってやつが、分かっていないのかもしれない。それでも、私なんかに懐いてくれた彼女が、好きだ。 「……やっぱり、出て行くの?」  ダンボール二つしか無い空っぽの部屋を見渡して、佳奈実が尋ねる。 「明日には出て行くわ。香梨――妹にも言ったし、いつまでも居候って訳にもいかないでしょ」  身勝手に転がり込んで、居座って、今度は身勝手に出て行こうとする。どの口で今更遠慮じみたことを言っているんだ、と自分で悪態をつく。  佳奈実は何かに耐えるように唇を噛んだ。優しい佳奈実のことだ。私が出ていくことに寂しさを感じてくれているのだろう。そういう純粋なところが、私は大好きだ。 「それに、私がここに居たら、みんな不幸になっちゃうでしょ」 「そんなこと……」  何かを言おうとして、佳奈実は口を噤んだ。否定したところで、私の言葉が事実なのは、子供ながらに理解しているのだ。
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