今夜、私は好きな子にお別れを告げます。

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 香梨は私と違って、折り目正しく生真面目。それでいて、一本芯の通った人間だ。姉妹なりの色眼鏡はあるだろうが、私からすれば、ちゃんと生きている側の人間。私と正反対に。  それ故にのんびり屋の旦那さんとはバランスが取れていて、うまくいっているのだろう。この家庭的な雰囲気に包まれた家族を見れば伝わる。  それ故に、私という異物が家族に入り込んでいる違和感に、苛立ってしまうのだろう。自分の想定していない何かで、家族が崩壊してしまうのではないかと。  実際、娘の佳奈実は異物に靡いて、懐いてしまっている。由々しき事態だ。  しかし、実の姉妹だから表立って無下に扱うことも出来ない。香梨からすれば私は、実に厄介な存在だろう。  それに気がついていて、甘えてしまっている私も……。  これ以上妹を苦しめることも、関係を悪くすることも本意ではない。だって、実の妹だから、嫌われたくない。 自分と違って、ちゃんと生きている妹が好きだから。  だから、私は明日この家を出ていく。 「少し、出かけよっか」  強く握った拳をフルフルと震わせ、血が出んばかりに唇を噛む佳奈実が見ていられなくて、私は声をかけた。 「そうだね」  ふっと拳を解いて、佳奈実は浮かない顔で頷いた。  窓からはチラホラと少しの星と、少し欠けた月が瞬いている。  別れを告げるには、いい夜だ。
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