今夜、私は好きな子にお別れを告げます。

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 街灯が等間隔に並ぶ河原の遊歩道を、二人並んで歩く。 「んー……っ。やっぱり外の空気は良いねえ。あんな狭い部屋で閉じこもってるとさ、窮屈で仕方がないよ」  私がうんと伸びをすると、夜の冷えた空気を目一杯体に取り入れる。気持ちいい。やっと呼吸が出来た気がした。  倣うように佳奈実も伸びをした。しかし、ただ動きだけを真似しただけで、私と違い、心地よさなんてどこにもないような沈んだ顔をしている。  佳奈実には笑っていてほしいのにな。  笑って、私を見送ってほしいのに。 「もう一年近く経ってるのに、初めてここを二人で散歩したのがついこないだみたい。いやあ、歳を取ると時が過ぎるのが早くて嫌になるね」 「……うん」  明るく努めて、思い出話を話してみる。それでも、佳奈実は沈んだ顔のままで、こちらを見てくれない。  そういえば、初めて二人でこの道を歩いた日も、同じように佳奈実は沈んだ顔をしていたっけ。  さすが親子というべきか、佳奈実は香梨と似て、もうすぐ中学三年生なのに化粧の一つも知らない地味で、学校の下校中に寄り道をすることにも後ろめたさを感じてしまう真面目な子だった。  でも、親子でも当然違いはあって、香梨の他人が何を言おうが意思を貫き通すような心の芯が、佳奈実には無かった。その上、私のように壁から逃げることも知らないもんだから、出会った頃の佳奈実はいつも辛そうな顔をしていた。  私にはひと目でわかったよ。ああ、この子は何かに疲れていて学校が苦手になっているのに、休むのは悪だと刷り込まれてるから、無理やり行ってるんだなって。 「そういえば、覚えてる? 初めて学校をずる休みした日。佳奈実ちゃんってばどこに行ってもキョロキョロしててさ。知り合いになんて見つかりっこないって言っても、怯えっぱなし。あのときの顔ったら……」 「……うん」  だから、私は佳奈実を無理やり色々な場所に連れ回した。化粧品屋だったり、お高めの服屋だったり、居酒屋だったり、夜景の綺麗なデートスポットだったり。それこそ、いろいろ。  その度に驚き、感激し、喜び、百面相みたいにコロコロ表情を変える佳奈実を思い出すと、自然と顔が綻ぶ。  私は佳奈実に知ってほしかった。今、あなたが閉じ籠もって雁字搦めになっているその世界の全てだと思い込んでいる場所はほんのちっぽけな一部で、必死になってしがみつく程の場所じゃないってことに。 「あの時も佳奈実ちゃんはさ……」 「……」  俯いたままで、佳奈実は空返事を繰り返す。私の言葉が耳に届いていないみたいだ。  どうやったら佳奈実を元気にできるのか、どんな言葉をかけたら佳奈実は笑ってくれるのか、私には全く思いつかない。ただ、この子を暗い顔にしている原因が私だというのは、痛いほどに理解している。  だからって、どうしようもないのよ。私が居れば、佳奈実の家族は不幸になる。私が出ていくしか無いの。  ねえ、笑ってよ。お願い。 「できれば、佳奈実ちゃんには笑顔で見送ってほしいんだけどな」  口から零れ出てしまった言葉に私ははっと驚いた。慌てて口を閉じるが、言葉は元に戻らない。本心とはいえ、言ってはいけなかった悲しい言葉。
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