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別れるのが、二人のため。佳奈実のためなんだ。私は言い聞かせる。
出来る限りいやらしく口角を上げて、私は言った。
「……私、あなたのことがずっと嫌いだったの」
瞬間、佳奈実は誰かに後ろから刺されたように硬直し、目を見開いた。驚きと戸惑い、そして佳奈実の心が傷ついたことが、手に取るように分かる。
「う、嘘だよね?」
唇を震わせながら、佳奈実は恐る恐る尋ねる。ゆっくりと縋るように手を伸ばしてきたので、私はそれを払い除けた。
ごめん。出来ることなら、手を引いて、体ごと抱き寄せて抱き締めてあげたかった。冷えた体を、心を温めてあげたかった。
よほどショックだったのか、払われて力なくぶらりと垂れる手を、佳奈実はうつろな目で見つめている。
こんな子を更に痛めつけないといけないなんて。
「ホントウよ。ぼうっとしていれば、世界が自分にとって都合の良いように回ると思っているその能天気さとか、私しか見えていないみたいに、何も考えないでヘラヘラと後ろ追いかけて来るところとか、ずっと大嫌いだったの」
心とは裏腹に、私の口が思いの外饒舌だったのは、この言葉の一部分は本心だったからだ。
正直に告白すると、私は佳奈実が嫌いだった。
事情は尋ねてもいないので知らないが、何かしらで学校が苦手で、でも立ち向かう強さもなく、逃げようともしない。かといって、誰かにSOSを出すこともしない。ただ、悲劇のヒロインみたいに辛い顔をして、誰かが助けてくれるのを待っているだけ。
そんな佳奈実を見ていると、どうして嫌々我慢しているんだろう、とイライラした。
だから、私は佳奈実を無理やり連れ回した。
親切心じゃない。
ちゃんとしたレールから外れて、一時の感情に流されて堕落する、私みたいな人間になればいいと思ったからだ。
思い返せば、私は真っ当に生きている香梨に嫉妬していたのかもしれない。妹の娘である佳奈実を汚すことで、困らせてやりたかった。
なんて、ちゃちな人間性。
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