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「でもね、そんなあなたにも良いところがあったわ。それはね、バカみたいに従順なところ。だから、からかっちゃった。どこまで言いなりになるんだろうって。まさか何の疑問も持たずに着せかえ人形みたいに裸になった時は、頭空っぽなのかと思って笑いそうになったわ」
学校をずる休みした佳奈実は初めこそ戸惑っていたけど、すぐに楽しみだした。私が誘うと、まるで子犬が散歩をねだるように、嬉しそうにどこへでも着いてきた。
『純香さん、純香さん』
『今日はどこに連れて行ってくれるの? 純香さんはわたしの知らないことを教えてくれるから、大好き』
『わたし、純香さんみたいな大人になりたいの。あ、お母さんには内緒だよ。絶対に怒るから』
私なんてちっぽけな人間に、こんなに可愛らしく懐いてくれている子を嫌いなままでいられるはずがない。
いつしか私は、当初の目的を忘れて、本当に佳奈実を助けたくなっていた。佳奈実の知る狭い世界の外を見せてあげたくなった。
でも、それも今日でおしまい。
私がケラケラと嘲るように笑うと、佳奈実はボロボロと涙を流しながら、怒りを露わにして私を睨みつけた。
「わ、わたしだって純香さんなんか嫌いだったよ! お母さんに嫌われてて、一人ぼっちで寂しそうだったから同情して遊んであげたら勘違いしてさ、馬っ鹿みたい!」
強がっているのがバレバレな怒りで、佳奈実はわたしを貶す。
「純香さんなんて、どこにでも行けばいいんだ! もう二度と顔も見たくない!」
ふっと強張っていた私の顔から、力が抜ける。一瞬、佳奈実の顔から怒りに変わって驚きが顔を見せたけど、すぐにまた怒りが戻ってくる。
そう。それでいいの。これが、これまで関わってきた全てを放り投げて逃げ続けてきた私に相応しい別れ方。嫌われて嫌われて、怒りが私への憧れを塗りつぶせばいい。
「もう知らない! さよなら!」
全てをぶちまけて、佳奈実は逃げるように走り出した。
ああ、私を置いて行かないで。戻ってきて。と懇願してしまう、弱い私が顔を出しそうになる。自分で選んだくせに。自業自得。
夜空を見上げる。少し欠けた丸い月は、私を肯定も否定もせず見下ろしている。冷たい風が私の頬を撫でる。気持ちがいい。
いっそ、責めてくれたらどれだけ楽だったろう。そうすれば、あんたに何が分かるのさって、開き直って八つ当たり出来たのに。
「自分で選んだんだからさ」
誰に言うでもなく、呟いてみる。
寂しくて、情けなくて、少し泣いた。
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