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「仕方のないことなのです。この屋敷の使用人は女性が三人と、運転手の男性が一人しかおりません。その男性も、もう50代で俊敏性にかけます。万が一、なにかあった時に、お嬢様をお守りするためには、文武に長けた若い男性が一人はいないと困ります。あなたには、屋敷の用心棒としても、しっかり働いて頂きますので」
「なるほど。それなら、お任せ下さい。この命にかえても、お嬢様は、お守りいたしますよ」
「そのつもりでいてください。では、忠告はしましたので、決して、お嬢様に恋心など抱かぬよう」
──トゥルルルル!
すると、その瞬間、屋敷の奥から電話の音が鳴り響いた。矢野は、その電話の音に反応すると
「では、私はこれで。もう直、お嬢様が学校から、お戻りになられます。あなたは、それまでに、しっかりと身なりを整えていてください」
──バタン!
その後、矢野が、そそくさと部屋をでていくと、レオは、扉が閉まるのを見届けたあと、誰もいない部屋で、一息ついた。
「……なかなか、厳しそうな人だな」
そう言って、苦笑すると、レオは改めて机の上に置いたトランクに向き直る。
中から荷物を取り出し、持参した筆記用具や日記を机の中にしまうと、その後、部屋の中を移動し、クローゼットの中から、予め用意されていた燕尾服を手に取った。
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