執事と恋心

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   屋敷から支給されたそれは、サイズにも問題はなく、その真新しい燕尾服を、ベッド横のコートハンガーにかけると、レオは今、着ている服をスルリと脱ぎすてた。  白のワイシャツに袖を通し、黒のウェストコートとネクタイを締め、ジャケットを羽織ると、最後、真っ白な手袋をして鏡の前に立つ。  すると、鏡に映る自分と目があった瞬間、腹の底から意もしれぬ笑いがこみ上げて来て、レオは、妖しく歪んだ口元を、そっと隠した。  別に、燕尾服を着た自分が、おかしかった訳ではない。  おかしかったのは、自分が、ということだ。 「お嬢様に、恋心を抱かぬように……か」  先程、矢野に言われた言葉を復唱し、レオは、スッと目を細めた。 「悪いが、もうかな?」  阿須加家の一人娘・阿須加 結月。  あれから彼女は  どんな美しい女性に成長しただろう。  髪は、どのくらい伸びただろうか?  俺と再会して  どんな反応を見せてくれるだろう。  驚きのあまり言葉を失うかもしれない。  それとも、泣いて抱きついてくるだろうか?  まだ見ぬ『お嬢様』を思い、レオは一人ほくそ笑む。 「……やっと、この時が来た」  やっとやっと、待ちに待った、この時が 「待ってて、結月。今から、この屋敷を」  俺が──にしてあげるから。
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