お嬢様と箱

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お嬢様と箱

「おはようございます、お嬢様!」  名家・阿須加(あすか)家。その日の朝は、高らかなメイドの声から始まった。  朝日が射し込む中、お嬢様の部屋の扉を開けて入ってきたのは、ポニーテール姿の若いメイドだった。  そして、そのメイドは、だだっ広い西洋風の部屋の中をスタスタと進むと、天蓋付きのベッドの前まで歩みよる。 「結月(ゆづき)様! もう朝ですよ! 起きてくださいまし!」 「ん~……」  すると、この春の季節、少し薄手の羽毛布団の中から、女の子が顔を出した。  彼女の名前は、阿須加(あすか) 結月(ゆづき)。18歳。  この屋敷に住む一人娘だ。  茶色がかった黒髪は腰近くまで伸び、細いながらも柔らかな容姿は、とても女性らしく魅力的。その上、色白で愛らしい顔立ちは、まさに絵に書いたようなお嬢様だった。  しかし、結月は、その後、小さく欠伸をすると 「ふぁ~……ごめんね、恵美さん。いつも起こしてもらっちゃって」 「いいえ。お嬢様が、朝が弱いのは今に始まったことじゃありませんし! あ、カーテンを開けでもよろしいですか? 今日は、とてもいい天気ですよ!」 「えぇ、お願い」  メイドの声に、結月が、ふわりと微笑む。  すると、そのメイド──相原(あいはら) 恵美(めぐみ)は、窓の前まで歩み寄り、サッとカーテンを開けた。
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