お嬢様と箱

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 すると、その先には、英国風の美しい景色が広がっていた。  庭というには広すぎるその庭園は、全て阿須加家の敷地内にある光景だった。  奥に見える正門から、真っ直ぐに伸びる白亜の道と、それを彩る美しい花々。  屋敷の手前には、ロココ調の噴水が優雅に流水し、そして、その傍らには、ティータイムを楽しむためのアウトリビングまであった。  それを見れば、結月の住む屋敷が、いかに広大かは、一目瞭然。  だが、そんな広大な屋敷で暮らしているのは、結月と、たった四人の使用人だけだった。  結月の身の回りの世話をするメイド『相原(あいはら) 恵美(めぐみ)』に、メイド長 兼 家庭教師(ガヴァネス)の『矢野 智子』。  そして、シェフの『冨樫 愛理』に、運転手の『斎藤 源次郎』の四人だけ。  父と母は、めったにこの屋敷には訪れない。  だからかこの四人は、結月にとっては、家族も同然な人たちだった。 「お嬢様。本日のモーニングティーは、アッサムをご用意いたしました。ミルクは、いかがいたしますか?」 「そうね、入れてちょうだい」  恵美が、モーニングティーを()れながら、問いかければ、結月は、柔らかく笑いかけ、その後、ベッドから立ち上がった。  外の景色を眺めたあと、自分の机の前まで歩み寄る。  すると、その机の上には、が置かれていた。  淡いブルーの正方形の──箱。  
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