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下を向いたら泣いてしまいそうで、必死に唇の皮が破けて血が出そうなほど噛んで、やっとの思いで前を向く。
その頃には松井さんはこの部屋を出るところだった。息が詰まって、ふうっと吐くと涙も鼻水も一斉に出た。
子供のように袖を濡らした。
スーツ、ワンサイズ上にしといて良かったな。
何分くらいそこにいたんだろうか。
思い出せない。
でも気づいたらいつものイスに座ってパソコンと向き合っていた。
上司から突きつけられた企画書は鞄の中に放り込んだ。代わりに新しい企画を今月中にまた考えなければいけない。
髪を雑にかき上げる。
頭も心も空っぽで、それでも働かなきゃいけない。
働く意義を見失いかけていた。
そうするとふと、死が魅力的に感じてしまって、死を考えると不思議なことに憂鬱な気分を晴らしてくれた。
かと言って自分が自殺することなんて眼中にも無くて、ただ口癖のように心の中で死にたいと感じていた。
だからだ。
だからあんなことが起きたんだ……
この日はいつも通りやることはやって、かと言って誰かの分まで働くということも無く定時で会社を出た。
それでも外は暗く、虚しい気持ちにさせた。
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