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『ふ~ん、だったら亜沙美先生原稿は進んでいるのでしょうか?』
松木の意地悪な含みのある笑い声が聞こえてきた。その顔はきっと唇を歪めているのだろう。
「うっ、それは……」
『それは、どうしたんですか? 亜沙美先生』
「い、一行も書けていません……」
わたしは悔しくて地団駄を踏んだ。
『な、なんと亜沙美先生は一行も書けていないんですか。って、おい、一行も書けていないのかよ!』と松木は大声で叫んだ。
「そんなに大声で叫ばなくてもいいじゃない」
松木の大きな声が耳にキーンと響く。
『亜沙美先生いや、ぽんこつ先生、どれだけ頭が壊れているんだよ。一週間時間をやったのに何をしていたんだよ』
「……何をって仕事をしていたわよ」
『仕事って何の? 執筆かな?』
「コールセンターの仕事だけど……」
わたしがそう答えると、『ふざけるなよ!』と松木が大声で叫ぶものだから耳がキーンと痛くなるではないか。
うるさい男だ。
「松木うるさいよ。わたしだって一生懸命考えているのに何も思い浮かばないんだから仕方がないじゃない」
なんて言いながらちょっと情けなくなってくる。
「だからぽんこつだって言われるんだよ」
「……酷いよ」
わたしは耳に当てたスマホをぎゅっと強く握った。電話口から松木の大袈裟な溜め息が聞こえる。
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