婚活女子

1/1
前へ
/8ページ
次へ

婚活女子

 カタカタ……  薄暗い和室に、響くワープロ。  インターネットでチャットをして、気の合うパートナーを探す「シャ・トロワ」に入会したばかりの花ヶ前 真由美(はながさき まゆみ)は、年頃の男子と話すことに熱中していた。  35歳になるまで、男性とつき合ったことがない。  仏様のように細目で穏やかな「ほへ顔」女子だからだろうか。  一週間に2人ずつ、データマッチングした相手が表示される。  顔写真、職業、家族構成、住所、年収、一言コメントなど、課税証明書と戸籍抄本で照合するからウソはない。  1人の男性に目を留めた。 「ほへ顔男子 ━━ 」  男は横線を2本引いた、見事な細目である。  驚くほど、観音様に似ていた。  早速チャットに誘う。 「はじめまして。  花ヶ前 真由美です。  プロフを拝見しました。  もしよろしければお話しませんか」  始めはこんな感じで相手の出方をみる。 「こんばんは。  志保 宗親(しほ むねちか)です。  チャットだけではアレですから、お会いして話しませんか」  早速会う約束を取りつけた。  今週末、午前中にお互いの中間駅改札で。  ごく普通の設定だった。  ほへ顔は、印象に残りにくい。  真由美は宿命的に、普通の女子人生を生きてきた。  美人ではないが、ブスというほどでもない。  学校の成績は、秀才ではないし落ちこぼれてもいない。  いつも平均点くらいだった。  スポーツも、一応満遍なくできる。  だが、活躍した記憶はない。  こんなほへ顔女子に目をつけた、ほへ顔男子はどんな男か気になってきた。 「きっと、何もかも普通なんじゃないかな」  妙な期待に胸を膨らませて、チャットで軽く婚活の話などをしていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加