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お見合い
並んで歩きながら近くのカフェに向かった。
あらかじめ地図を調べて目星をつけていた。
駅から近くて、落ち着いて話せそうな雰囲気の無難なカフェである。
「ここなんだけど。
いいかな」
「ええ。
入りましょう」
初めて会うときは、1時間程度で切り上げる。
様子を見ながら話すと、思いのほか疲れるものだ。
これは「シャ・トロワ」から毎月送られる雑誌に載っていた。
2人はそれぞれブレンドコーヒーだけを注文して、席についた。
通りに面した側は、全面ガラス窓になっている。
明るい自然光が店の奥まで入り、開放的な雰囲気である。
椅子は硬めのソファだった。
ほっと一息つける程度の快適さがあった。
「来たことあるんですか」
真由美が何気なく聞いた。
ちょっと間をおいて、
「いえ。
初めてだから外れがなさそうなところをと思って、よくあるチェーン店にしました」
宗親は素直に答えた。
「志保っていう苗字、珍しいでしょう」
「そうですね。
よく言われますか」
こんな些細な話題から、話し始めた。
ほへ顔同士という、強烈な繋がりがある。
きっとお互い、普通を好む穏やかな性格だと直観していた。
「僕の紹介文にも書いたんですが、この通り外見も普通で勉強も運動もそこそこなんです。
顔に自信あるわけでもないし。
特徴的なのは名前くらいです」
「婚活を始めたきっかけは何ですか」
月並みだが、真由美はこの質問をあらかじめ用意していた。
本質的で、素直な疑問である。
婚活をしているのだから、結婚願望があるかといえば、そうでもない人もいる。
親に勧められて、なんて言われるとちょっぴり残念な気分になる。
「実は、親に勧められて始めました」
「えっ」
真由美は虚を突かれた。
親に勧められたなんて、いい年して恥ずかしいと思うのではないかと踏んだからだ。
あっけらかんとして、むしろ好感が持てた。
「私は、そろそろ婚期を逃すと後悔するかと思って始めました。
やっぱり、会う人にみんなこんな話をしますよね」
「まあ。
婚活を話題にするのは無難ですよね」
くすっと笑った真由美が、ちょっぴり可愛らしかった。
送られたデータで、仕事や家庭環境もお互いに知っているが、確認するようにデータをなぞっていく。
店内は人が少なくて、ジャズだけが優しく響いていた。
コーヒーを30分ほどで飲み終え、宗親はお代わりをした。
真由美はトイレに立った。
席で独り待ちながら、まんざらでもない雰囲気になった自分に言い聞かせた。
「焦るなよ。
まだまだ先は長い。
今日のところは様子見だ」
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