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メル友
宗親は律儀なので、メールに気づくとすぐに返した。
仕事中も、空き時間にこっそり返し続ける。
「きょうはいい天気ですね。
仕事するにはもったいないと思いませんか」
「同感です。
早く週末にならないかな」
こんな、他愛ない会話を続けるうちに習慣になっていった。
「私たちって、もしかしたら気が合うのかもしれませんね」
「今度の土曜日、お台場へ行きませんか。
車出しますから、三ノ割駅から。
どうですか」
思い切って、振ってみた。
「いいですね。
新しいテーマパークができたって聞きました」
トントン拍子に進み、土曜日になった。
「おまたせ。
じゃあ、どうぞ」
まだぎこちなさがあるが、彼女と一緒にいると楽しくなった。
予定通り、ゲーム会社のテーマパークで遊び、ショッピングをして、元来た道を帰る。
宗親は、女性と話すのが苦手である。
もともと無口なのだが、街並みを観察して話が途切れないように話題を探し続けた。
頑張った甲斐あって、沈黙することなく一日を終えることができた。
「今日は楽しかったよ。
じゃあ、またメールするね」
笑顔で手を振る彼女が、輝いて見えた。
また、すぐにメールをする。
ジェットコースターのようなアトラクションが面白かったとか、大きな観覧車に今度は乗ってみたいとか共通の話題に事欠かなくなった。
家ではラナ・シーの曲を聴き、文章に織り交ぜる。
真由美は友だちの話などで話題を膨らませ、しだいにお互いの生活を理解し合うようになった。
携帯電話のショップで働く真由美は、テキパキとした仕事ぶりを感じさせたが、ときどき愚痴も言った。
「僕で良ければ、愚痴を聞くよ」
出不精な宗親は、飲み屋で話す方が性に合っている。
だから、仕事の愚痴などの聞き役に徹するのは苦にならなかった。
「そろそろ、愛称で呼んで丁寧語もやめませんか」
真由美は思い切って提案する。
もちろん距離感を一気に縮めるためである。
「そうだね。
それじゃあ」
「ムッチーはどう」
「それいいね」
「じゃあ、縮めて真由ちゃんでいいかな」
1日数十回SNSでやり取りが続いた。
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