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三度目
「女性と3回会うなんて、新記録だな」
今週末は、やはり三ノ割駅前の飲み屋チェーンで開店すぐを狙った。
1度目は様子見。
2度目はアトラクションでお互いを知る。
3度目は落ち着いて話をする。
完璧な流れに思えた。
「お待たせ」
真由美は待ち合わせ時間より前に来た。
「お酒は飲める? 」
「ええ。
まあ、普通程度だけどね」
彼女は笑顔を絶やさない。
宗親も決して絶やさないようにしている。
夕方5時に店に入った。
店内はガランとしていて、ゆっくりするにはいい時間帯だった。
早いので、広めの座敷に通される。
「ふう。
落ち着いたね」
「そうね」
お通しと水に手を付けると、中ジョッキをお互い注文した。
いつものように、メールでやり取りしたことを話していた。
1時間半くらいたっただろうか。
真由美がポツリと言った。
「婚活って…… 難しいね」
宗親は次の言葉を飲み込んだ。
意味は瞬時に理解できた。
口元を引き上げる筋肉が緩むのを感じる。
窓の外は、暗くなりかけていた。
テーブルに目を落とし、彼女の気持ちを悟った。
「そうだね…… 」
重たい言葉だった。
しばらく重たい沈黙が続く。
宗親はビールを一気に流し込んだ。
勘定は割り勘のまま。
2人は駅へと向かう。
改札を通るとき、
「いろいろありがとう。
お互い、プラスに考えて頑張ろうね」
彼女のトーンは下がっていたが、誠実さが感じられる。
「じゃあ、またね」
宗親は、人と別れるときに「さようなら」を言わない。
生きている限り、いつかどこかで会う可能性があるからである。
再会を望むわけではない。
だが、追い詰められた気分だった。
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