シンサイ

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 避難指示が出たのは12日の午後だった。テレビやラジオ、携帯電話、町の放送などで情報を得た住人はすぐに避難を始めたが、棚橋母娘のように携帯電話の電源を切り、拡声器の音も届かない場所に住んでいた住人の非難は遅れていた。  棚橋の家がある地域は開拓地のために元々周辺に人家は少なく、その少ない家の多くは土地を捨てて都会に出てしまっていた。おまけに棚橋家は、学の失踪後で村の行事に参加することも少なくなり、存在が希薄になっていた。 「これって村八分よね」  玲奈がつぶやいた。春花は聞こえないふりをした。理由はどうあれ、見捨てられたことを認めたくない。  田舎の国道は警察車両や消防団の車が並び、交通規制が行われていた。道路に点在する緊急車両と、防護服姿の緊張感にあふれた人物。その様子を見ると今更ながら気が焦った。それは生まれて初めて見る異常な風景だった。  道に立つ人間は一様に白い防護服を着ているために、警察官なのか消防団員なのかわからない。しかし、その態度から、彼らが極度に緊張しているのは良くわかった。  春花は顔見知りの消防団員がいないものかと見ていたが、マスクで顔が隠れているので見分けることができなかった。逆に車中の春花を見つけて挨拶を返したような顔もなかった。
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