シンサイ

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「希望の書に関する報告書。東城大学考古学研究室だって……」  彼女はそれに真剣な目を向けた。 「……希望の書は、ノートのことじゃないみたい。その石のことらしいわ」 「そうなの?」  春花は驚き、黒曜石を手に取った。やはり、ただの石の塊だ。〝書〟というからには本だと思うが、ひっくり返してみても、文字らしきものは何処にもない。 「お母さん。その石ね、本になっているらしいの」 「どこにも文字はないわよ」 「えーっとね……」玲奈がページをめくった。「……開くことができるのは、夜だけだって。中には古代文字が刻まれているらしいわ」 「古代文字?」  春花の中の好奇心がスーと冷めた。そんなものを読むより、今は部屋の片づけが先だ。 「誰が作ったのかは分からないみたい。中に書いてあることは研究員のインスピレーションで推定されたけれど、その説明は科学的にはできないって書いてある。面白いじゃない」 「何かの役に立つものなの?」  骨董品なら多少の金銭に換えられるかもしれないけれど……。そうだ。これを売って壊れた家具を買い替えよう。……決心して石を置いた。
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