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「信じる者は救われる……」
玲奈が嫌味を言いながらレバーを動かした。
しばらくすると春花の予想通りに徐々に水の色は変わり、やがて澄んだ水に代わった。
「アッ、奇麗になった」
玲奈が声をあげる。
両手に水をくみ、臭いをかぐ。「うん。無味無臭」
「これなら料理にも使えそうね」
「ほらね」
春花は得意になって、ペットボトルや鍋などの容器に水をくんだ。
「これで雑巾がけも出来るわよ」
バケツに水をくむと、母娘は部屋の雑巾がけに取りかかった。
薄暗くなってから、ありあわせのもので夕食を作り、ろうそくの下でテーブルを囲む。話題はもっぱら地震と〝希望の書〟のことだった。
「食事がすんだら開いてみましょうよ。開け方は報告書にもあったから……」
「見たいけれど、やっぱり怖いわ。昔から、ただほど高いものはないと言うのよ」
言ってみたものの、春花にも棚橋明が隠していた目の前の〝希望の書〟は気になった。
「やってみるわよ」
玲奈が目で合図を送る。――信じる者は救われる――彼女が、そう言った気がした。
春花は小さくうなずいた。ごくりとつばが喉を鳴らした。
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