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「どうして?……」
最後に棚橋春花自身の名前が刻まれていた。
母娘は言葉を失った。
ろうそくのオレンジ色の光の中で、黒曜石は生き物の瞳のようにつやつやと輝き、何かを語っているようだった。
「……お母さんの名前、……お父さんの名前もあるわ」
玲奈がどうにか口を開く。
黒い影を作っている文字に指先で触れると、その文字が悪戯書きではなく意味を込めて彫りこまれたものだと実感できた。
「……どうして……」
春花は怖くなっていた。それが呪いや祟りの類ではないかと直感した。
「お父さんが彫ったのかもしれないわ」
玲奈が慰めるように言った。
「まさか……」声が震えた。「……こんな本の話は聞いたこともないわ。呪いがかけられているとかじゃないでしょうね」
「何か理由があるのよ」
そう言う玲奈も、現実を確認するように刻まれた名前に指で触れた。
「これは曾おじいさんの名前ね……」
彼女が確認するように言ってから尋ねた。
「……お母さん、山本直人って、知っている?」
棚橋家の3名の名前の中に挟まれた見知らぬ人物の名前だ。
春花は首を横に振った。
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