シンサイ

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「報告書には、お父さんとお母さんの名前が刻んであるなんて書いてなかったわよね」  玲奈が報告書を開き、内容を見直した。ろうそくの明かりの中の文字は風に揺れているようで頼りない。 「報告書に書いてある内容を読むわね。……〝希望の書〟に刻まれている文字は、漢字を除けば、かつて発見された文字に類似するものはない。但し、素材の黒曜石がフィリピン周辺のものであり、〝希望の書〟がインドネシア東部の島で発見されたことから、そのフィリピン、インドネシアの地域に現在までに確認されなかった文明があったのではないかと推測できる。今回、〝希望の書〟に刻まれた文字は、科学的に解読されたものではない。研究者のひとりのインスピレーションによって認識された文章を〝希望の書〟の文字に対応させたところ、ほぼ矛盾なく、単語と文字の対応を確認できたために、当該研究者のインスピレーションの確度が高いものとして、以下の文章を〝希望の書〟に彫られた文章として報告するものである……」  春花は、玲奈が読んだ内容を全く理解していなかった。理解しようとも思わない。彼女がわかっていればそれでいい、と思っていた。
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