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「希望の書というくらいだから、これを持っている人には、きっと良いことが起こるのよ」
玲奈が言った。が、彼女がそれを信じているようには見えなかった。
「本当にそう思うの?」
「早死にしたお父さんの名前があるから、違うのかな……」
彼女が苦笑した。
「どうかしら?……あの人は失踪したのよ」
春花は思わず口にした。
「エッ!」
玲奈が目を丸くした。それを見て、早まったかな、と少し後悔した。
「病気で死んだんじゃないの? お墓にも名前が刻んであるし……」
「お父さんは、ある日突然失踪したのよ。もしそれがあの人の希望だったとしたら、希望がかなったということになるわね」
話ながら、昔を思い出して少し腹が立った。あの人は、小さな子供と自分の両親を残して、ある夜、突然消えてしまったのだ。
いつか帰るものと考えて2年ほど待ったけれど、義父が失踪届を出し、その7年後に棚橋学は死んだことになった。
「お父さん、どうして出て行ったの?」
「わからないわ。今頃、どこで何をしているのかしら……」
春花は、黒い光を湛える希望の書に目を落とした。夫が、その中に吸い込まれる様を想像し、首を振った。
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