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シンサイ
西暦2011年3月11日の午後2時46分、東北地方の太平洋沖の広大な範囲でプレートが動き大きな地震が発生した。
――ドーン――
それは揺れというより爆発に近かった。棚橋春花の家は激しく突き上げられ、それから前後左右に弾かれた。テレビ、茶箪笥、本棚、冷蔵庫など、ありとあらゆるものが投げ飛ばされるように宙を飛び、倒れ砕けた。
春花は状況が呑み込めず固まった。
しばらくしてから、といっても数秒後、状況を理解して動き出した。
「地震、地震……」
飛び交う家具や雑貨の中を消火のために石油ストーブに這いよったが、それは春花の手を借りずとも、自動消火装置が作動して消えていた。それからは、ただひたすら揺れの収まることを祈った。祈りの時間は果てしなく続くかと思われた。しかし、永遠の揺れなどこの世にはなく、春花の気付かないうちに、大地の鳴動は過ぎ去っていた。
春花は床に掌を押し当てて、建物の揺れが止まったことに納得した。他人が見たら馬鹿なことをしていると思うだろう、と考えた。しかし、今はそうせずにはいられなかった。
「あ、あー」
呆然と茶の間と続きの床の間、台所を見わたし、天井を見上げた。蛍光灯はまだ激しく揺れている。落ちてくるかもしれない、と新たな不安を覚えたが、物が散乱していて移動できる場所などない。ただじっと揺れる蛍光灯を見つめているしかなかった。
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