シンサイ

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「もしお父さんが希望を叶えて失踪したなら、このまま〝希望の書〟を取り扱うのは危険ね」  玲奈が〝希望の書〟を閉じた。 「そうなの?」  春花には娘の言葉の意味が呑み込めなかった。 「うっかり口にしたことが実現してしまうかもしれないでしょ。真意でなくても。……〝希望の書〟を開けるのは、報告書とノートをしっかり読み直してみてからのほうがいいわ」 「なるほどね」  春花は納得した。最近では、消えちゃえ、死ね、といった言葉が簡単に使われるようになった。本人は軽い気持ちで言っているのに、それを〝希望の書〟が実現してしまったら大変なことだ。 「あの人は、軽い気持ちでどこか遠くに行ってしまいたい、とか言ってしまったのかもしれないわね」  春花の言葉に玲奈は返事をしてくれなかった。何も聞こえなかった風に、祖父が書いたノートを手に取り、古びた表紙をしげしげと見つめている。 「玲奈、どうかしたの?」 「おじいさんの名前は、どうして石に刻まれなかったのだろうと思って……」 「希望がなかったのかもしれないわ」 「お母さんは、希望があったの?」 「私は……」 「あっ、止めて。変な希望が叶ったら困る」  玲奈の手のひらが目の前に広がって、春花は口をつぐんだ。
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