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母娘は混み合う道路を玲奈のアパートに向かって走った。土砂崩れで通行止めになった道を迂回する。
1時間ほど走り、目についたコンビニエンスストアに立ち寄った。昼食用にパンかおにぎりを買おうと思ったが、商品陳列棚は空っぽだった。仕方なくお菓子の袋と缶詰、マスクをかごに入れてレジに並んだ。マスクを買うことにしたのは、道中で路上に立つ警察官や消防団員が一様にマスクをしていたからだ。
レジでパンがいつ入荷するのか尋ねると、店員はトラックが被災地に入れないので当分は難しいだろうと応じた。
「何故、入れないの?」
玲奈がたずねると、店員が一瞬、不思議そうな顔をした。
「原発事故のせいです。トラックの運転手が嫌がるそうで……」
彼はそう説明してホッと小さなため息をついた。
「こんなものが役に立つのかしらね?」
マスクをかけると春花は不平を言った。息苦しさは実感できるが、それで放射性物質を防いでいるという実感はない。
ハンドルを握る玲奈が「さぁ?」と苦笑した。
「原発は安全だって言っていたのに……」
「お母さん。それ、5度目よ。起きたものはどうしようもないじゃない」
玲奈が叱るように応じるので黙った。60間近の自分より、玲奈の方が放射能に対する不安を抱えているはずだ。そう考えると親として恥ずかしい。だけど、誰かに憤りを伝えずにはいられなかった。
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