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「津波があったのよ……」
玲奈が東日本の太平洋岸に巨大津波が押し寄せて、多くの町が破壊され、多くの死傷者が出たと説明した。
説明を聞きながら春奈は卵を焼き、お茶を淹れた。
「ここは山の中だから……」
津波なんてやってこない。助けてくれる人間も……。そんな風に考えると喜びと悲しみの入り混じった不思議な感情を覚えた。
玲奈の手を借りて部屋の片づけを進めた。重い茶箪笥と仏壇を起こし、テレビの位置を元に戻し、寝室の和箪笥も起こした。それで、元の生活が戻るような気がした。
「ちょっと、休憩」
昼を過ぎた時、玲奈がスマートフォンをバックから取り出して電源を入れた。停電が続くとわかってから、バッテリーを長持ちさせるために電源を切っておいた、と彼女が説明した。
「メールが沢山来ているわ」
彼女がそう言いながらいくつかのメールを開いた。バッテリーの消耗を恐れて、ほとんど返事は書かない。
「エッ!」
「どうしたの?」
「これ……」
【遠くに逃げたほうが良いです……】と、それにはあった。
玲奈の旧友、沢田ソアラからのものだ。
「ソアラなんて、おしゃれな名前ね」
春花は感心した。
「ソアラ、原子力発電所のある町のお医者さんと結婚したのよ。最近は連絡を取ることが少なかったのに、どうしたのかしら?」
彼女の警告の理由を知ったのは、インターネットのニュースを確認したときだった。
「お母さん、大変。原発が……」
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