不思議な光

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不思議な光

 秋の始まりを知らせるかのように、冷たい風が吹き抜けていく。赤や黄色に変わりゆく葉は、カサカサと寂しげに揺れていた。 「あれは何かしら」  リテルア王国の第一王女クレナは、自室のバルコニーから日が沈んだばかりの空を見上げた。暗くなりかけた南の空を、金色のまばゆい光が高速で移動していく。 「星みたいに見えるけど、流れ星にしては動きがゆっくりだし……」  金星にも似た光は一定の速さで西へ向かい、やがて山の向こうへ消えてしまった。  生まれて初めて見た不思議な光に、クレナの心は踊っていた。 「お父様、さっき不思議な光を見たの!」  夕食の時間、クレナは光について興奮気味に話したが、国王は呆れたようにため息をついた。 「夢でも見ていたのではないか。それよりクレナ、お前はこの国の『神』なのだぞ。城の中でも、ちゃんと神らしく上品な言葉を使いなさい」 「でも……」 「『でも』じゃない。『はい』だ。お前はまだ十歳だが、国民から崇拝される特別な存在だという自覚が足りない。お前には、まだ色々学ばないといけないことが山ほどあるのだからな」  この国では昔から、新しい国王を産む女性は神聖な存在として敬われ、特に国王の血を引き継ぐ第一王女は「国の神」として国民から(あが)められる習わしがある。女子がなかなか生まれない時代は「神が不在の時代」と言われ、作物の不作や洪水、飢餓などに見舞われたという。 「今はクレナ様が守ってくださっているおかげで、俺たちは豊かな暮らしができているのだ」 「クレナ様のお力は偉大だわ」  国民は皆、クレナのことを褒め称え、崇拝していた。でも、子供のクレナには、自分が特別扱いされる理由が理解できなかった。 「お母様、どうして私は他の人と違うのかしら。私には特別な力なんてないのに」  クレナは自室に戻り、亡くなった母の写真に問いかける。その優しい微笑みは、決して変わることはなかった。
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