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そのモデルに変わって10分ほど経った頃だった。シャッターを切っていて、ふと、ある違和感を感じた。引きの構図で撮っている時だった。違和感の正体に気づいた時、確かめてみたい気持ちになった。カメラを下ろし、正体の持ち主に目をやる。モデルは不思議そうな表情を浮かべ、こちらを見つめ返している。切れ長の目に薄い唇、ベリーショートの、少年のような顔立ちだった。カメラを構え直し、撮影を再開する。何枚か続けて撮った後、ひと呼吸おいて、彼女の左手にフォーカスした。シャッターを切ろうとした瞬間、その手がファインダーの枠から消えた。顔を上げると、彼女は手を後ろに隠したまま、睨むような目つきで私を見ていた。
「どうかしましたか」
スタッフの一人がおずおずと私に声をかける。スタジオに戸惑いの空気が流れていた。
「一旦休憩にしよう」
全員に伝わるよう声に出した。控え室に戻るモデルの背中を見ながら、近くのスタッフに問いかけた。
「彼女ですか。キオコさんですよ」
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