イノチノホタル。

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イノチノホタル。

 これは、例えばの話なのだけれど。  とある惑星には、顔がアンパンでできたヒーローのアニメがあるらしい。彼は、困っている人をほっとけない人物で、お腹がすいている子や元気がない子には、自分の顔をちぎって与えるのだそうだ。  ただし、顔のパンが欠けていると、彼は力が出せなくなり弱ってしまう。大抵そのタイミングで悪者が現れて、彼はぼっこぼこにされてしまうのだ。顔を交換して、元気になって復活し、悪者をやっつけるところまでがデフォルトなのだが。  しかし、毎回同じパターンでやられているのを見た大人達はきっとこう思うだろう。顔が欠けていなければ、アンパンのヒーローは無敵だ。あんな小悪党に負けるはずがない。だったら、すぐに誰かに自分の顔をちぎってあげるという行為をやめたらいい。どうせ、目に見える範囲の人だけ助けたって世界平和のためには焼け石の水のようなものだし、時には見て見ぬふりをしたって許されるのではないかと。ヒーローが、彼以外にも存在する世界なのだから尚更に。  そう、彼も学習していないはずがない。  それでも自分の顔を千切って、困っている人に分け与えるのは何故なのか。それは命を削る行為にも等しいというのに。  主題歌にあるように、本当に愛と勇気だけが友達で、それ以外に寄る辺がないから綺麗事のような行動をしているのか?  その答えは多分――僕が、人助けをする理由と、同じようなものなのだろう、と思う。 「ありがとうございます、ありがとうございますリオルさん……!」  彼女は何度も何度も泣きながら僕にお礼を言った。“光”を受け取るその手はあかぎれまみれ、骨が浮き出た痛々しいものである。今までどれほど苦労を重ねてきたのか見えるようだった。  藁にも縋るような気持ちで、自分のところまで来たのだろう。北の国からここまで、本来ならばとても徒歩で来られるような距離ではないというのに。 「僕にお礼はいい。早く、それをあの子の元に届けてあげて」  僕はにっこりと微笑んで彼女に言った。 「あの子の命が助かることを、僕達もここで祈っているよ。そうだね、病気が治って君も体力を回復したら……一度ここに報告がてら遊びにおいで。南の国の春は暖かくて最高に気持ちが良いよ。たくさん綺麗な花が咲くんだ。君にもぜひ見て欲しいな。ああ、でも今度は歩いて来ちゃだめだよ。ちゃんと列車を使ってね」 「は、はい!ありがとうございます、ありがとうございます!その時は是非……!」  彼女は白髪交じりの髪で、何度も何度も頭を下げ、そして、小走りで立ち去っていった。僕はその背中に向けて祈りを捧げる。  この南の国から北の国まではかなりの距離がある。僕の力があっても、距離は越えられない。あの子が間に合うかどうかは五分五分といったところだろう。 ――それでも、信じる者に奇跡は起こるはずだから。  僕はそっと、両手を握りしめる。その僕の手の甲や指先から、ほろり、と金色の光が剥がれて宙を漂った。
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