序章

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序章

私は、、、 奴との戦いの日々を死ぬ迄忘れる事は無いだろう。 あの意思の強い目、髪、声·····全てが狂おしい程愛おしい。 唯一付けられた右肩の切り傷が毎日毎日疼き、触れる度·····思い出しては腹心の部下に居所は分かったかを聞く。 部下も毎度の事なので呆れながら、 「まだ掴めておりません。そろそろ諦めても良いのでは?」と言う始末だ。 「奴は必ず生きている。引き続き捜索してくれ」 「·····畏まりました」 このやり取りも···もう何度目か、、、、 今では『亡霊に取り憑かれた王』とまで部下や貴族、民達の中で噂されている。 皆、私が戦のし過ぎで頭がオカシクなったとでも思っている様だ。 ·····まあ、オカシクなったのは認めよう。 世継ぎも作らず、生きているのか死んでいるのか分からぬ人物を数年間探しているのだからな·····。 「全員さがれ」 全員を執務室からさがらせて書類に目を通す。 「····························。」 我が国に住む者達、国々を行き来する商人達には平民から貴族関係無く、一人一つのナンバーを与え、死ぬ迄ナンバーで管理している。 だからこそ最初の一、二年は自身の国を調べ尽くした。 しかし·····奴は見付けられず、最近は近隣の国々に部下を潜入させて調べてはいるが、手掛かりは一向に無い。 部下の言う通り、この気の遠くなるような事をさっさっとやめてしまえば良いのに、それでも私は飽きもせず奴を探し続けている。 早く逢いたい、触れたい·····抱き締めたい。 「お前は·····何処にいるのだ?」 ◆┈┈┈┈┈┈◆ お前と交わすのは言葉では無く冷たい鉄の剣。 互いが互いの国の為に戦わなければならぬというのに、私は国の民よりお前と殺り合う瞬間が愉しく、何物にも代えがたかった。 しかし、許せ。 殺り合う、と言っておきながら私は本気を出せていないのだ。 先祖がムフロンのお前では先祖がライオンである私とでは力の差が歴然。 それをお前に伝えれば、きっと、、、 『侮辱だ!!先祖なぞ関係無いッ!』と吠え、 怒りながら此方へ刃を乱暴に向けて来るだろうな。 お前はそういう奴だ。 戦場で初めて刃を交えた時なんか、 我が兵を次々と斬り倒し、器用に火の魔法を使って己より大きい獣人にさえ臆すること無く、敵の王である私の方へ向かってくる姿は血と火の粉の中舞い踊る妖精の様で実に美しかった。 私は思わず「···············美しい···」と口に出してしまう程に、、、、 一人で百人は切っただろう。 疲労と軽い怪我、荒い息を吐き、薄黄色の目が私を捉えた途端疲れを忘れたかの様に赤茶色の髪をなびかせて此方に向かって来る。 「ははっ、じゃじゃ馬な奴め」 奴がいる小国グルファ国はムフロン一族が治めている。 この国は農業や家畜が盛んで戦場とは無縁だ。 当初、同盟という形で上手く話が纏まりそうであった。が、この件を担当していた私の部下が殺され、同盟の話は決裂した。 そういえば、、、 同盟の話をしている間も奴だけは此方に敵意剥き出しだったな。 あの時は変な子供だと思い差程興味は無かったが。 私が興味があるのは強い奴のみ。 強い奴と言っても剣や魔法が強い奴だけでは無い。 口が回る奴、心が強い奴、頭の回転が早い奴·····。 強さの種類は色々だが、 私はその中でも『心が強い奴』が好きだ。 今、戦場で刃を交えているムフロンは私が知っている『ムフロン』では無い。 本来·····ムフロンは戦場には立たず、農業やお店に立っているものだ。 なのに奴は··········弱い筈のムフロンがこの戦場を駆け巡り此方へ向かって来る。 (·····面白い) この嬉しい予想外な事に知らず知らずの内口元が喜びで歪み鞘から剣を抜くと直ぐにキーンッ!という高い音と共に火花が散った。 「くッ、テオ貴様ァ”ァ”ァ”ッ!!!!」 まだ大人になりきれていない青年のムフロンが怒りを露わにして怒鳴るが、奴は·····体格差や実力の差がある私と今からどんな戦いをしてくれるのか想像するだけで胸が踊る。 「フッ、待ち侘びたぞルイス」 この時から何度も戦場にてルイスと剣を交えた。 会う度、奴は面白い戦法を用いり私はそれが楽しく、ルイスが私に傷を負わせた時は心が喜びで震え幸せだった。 しかし、数ヶ月続いた戦も突如終わりを告げる事になる。 兵力の差が圧倒的で彼処から降伏を伝える使者が来たのだ。 無論、私は承諾した。 無駄に両兵の犠牲を出さない事が一番だからな。 そもそも、あの国を植民地にする気は無かったし酷い待遇を与える気も無い。 本来の目的は食料の自給率を上げる事なのだから。 私は『王』だ。 良き王でなくてはならない。 父や祖父が治めた様に民が暮らしやすい国を作らなければならない。 奴と戦うのは好きだが王の仕事を放棄して迄やることでは無い。 国を豊かにする為に『私』はいる。 今後の話をする為、ルイスの父である現王と第一王子のルイス、それと数名の部下が我が国に来て会談する予定が決まった。 しかし、、、 その前日······私にとって憎々しい日となる。
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