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「(うう……やっぱ葵の過去が知りたい……!)」
酔った勢いも上乗せされて我慢ができなくなった綾乃は、キッチンに立つ葵の背中に問いかけた。
「ねぇ、やっぱ葵って昔から女の子にモテモテだったの?」
「……え? なんで?」
「だって私、葵の過去のことほんっとに何も知らないんだもん……やっぱ気になっちゃって! 中学高校の頃なんて学校中のアイドルだったんじゃないの? 誕生日にバレンタイン、文化祭に卒業式に……イベントというイベントが女の子にモテすぎて大変だったんじゃないっ?!」
手を止めてこちらを振り向かずに小さく笑った彼が、また手元の作業に戻る。
「中学っていうか、小学生の頃からバレンタインデーなんて一日中女子からの呼び出しと告白ばっかりで困り果ててさ、ついには毎年予約制にしちゃったのもいい思い出だなー」
「よ、予約制……っ」
「やっぱりな」と納得したところで、結局はもっと知りたいという欲が膨らむだけだった。
「じゃ、じゃあさ、初めて女の子と付き合ったのっていつなの?!」
「……え」
——包丁を持つ手が止まった瞬間だった。
「なによ、彼女くらいいたでしょー? 小学生と思春期は別物なんだからっ」
「………。」
返答がないまま、葵がお皿を持ってこちらへと戻ってくる。
「……まったく、詮索好きなお嬢様にも困ったものですねぇ」
クラッカーの上にキュウリの薄切り・サラミ・チーズが乗ったものをたくさん入ったお皿をローテーブルに置き、ため息混じりに彼がソファーの隣へと座った。
「執事はお嬢様の言うことなら何でも聞くのが仕事なんでしょっ? だから答えなさい! 私はお嬢様なんだからっ!」
「……っ」
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