148人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
——ここは、とある大手IT企業内の、社員専用に設けられた社内カフェ。
ここの営業部のいちOLとして勤務する藤崎綾乃は、午前の仕事を終えた後のブレイクタイムを一人で楽しんでいた。
シュガーシロップを5個も追加したカフェラテのカップを片手に、糖質50%オフの豆乳ドーナツをかじる。
代謝力が衰えてきていないことを祈り、激甘コーヒーに妥協できない代わりにおやつのカロリーにせめてもの気を遣う……そんな、24歳というアラサー直前の微妙な年齢。
それでもやっぱり綾乃は、食べた瞬間に脳を活性化させて幸せな気分にしてくれる甘いものがこの上なく好きなのだ。
そう、激甘で蕩けそうなくらい糖度が高いくせに、よく味わうと少しほろ苦くて刺激的な……スイートビターチョコレートのような、最愛の——
「おっはよー綾乃っ! ……じゃなくって、桐矢さんっ!」
カフェに入ってくるなり轟いたハイテンションなその声に、綾乃は思わずビクついた。
その声の主、経理部勤務である親友の倉田咲子はバン、と綾乃の背中を叩いてから向かい側のイスに腰掛けた。
「もう咲子ってば! 照れ臭いんだからその呼び方しないでよっ!」
「だって、桐矢くんからプロポーズされちゃったんでしょ? じゃあもう『桐矢綾乃』なんだから、問題ないよねーっ?」
だからといっていざその苗字を意識するとつい頬の筋肉が緩んでしまいそうになり、慌ててその表情を作り直す。
「あ、あのねぇ咲子っ、まだ正式に入籍したわけじゃないんだから冷やかさないでよっ」
「でも、婚約指輪プレゼントされて同棲生活スタートさせたんでしょ?」
「う、うん……まぁね。葵のフリーランスの仕事の方も落ち着いてきたし、年内には籍入れようかって話してるの」
結婚を間近に控えた同棲カップル……それは、幸せのピークと言っても過言ではない。しかし、お互いに仕事をしながら生活を共にする中、まだ結婚するという現実に実感が持てずにいた。
そして、そんな綾乃を見ている咲子は改めて安堵するのだった。
「しっかし、あんたが結婚とはねぇ……。一時期は『キープ君』なんていっぱいはべらせてたり、男を試すだのどうの言って好き勝手してたけど……」
最初のコメントを投稿しよう!