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そう、ほんの数年前までは異性を手の上で転がすだけでまともな恋愛すらしていなかった自分。
——そんな自分が誰かを心の底から愛し、そして愛されて結婚して家庭を築く。
しかも、その相手というのが……
「あの社内いちのイケメンで才色兼備のモテ男をあっさり持ってっちゃうなんて、結婚報告なんてしようものなら社内の女という女すべてが夜、枕を濡らすだろうねぇー」
「やれやれ」といった身振り手振りで笑う咲子の向かいの席で、綾乃は鼻高々に開き直った。
「ふっふーん! そりゃあね、当然よぉ。この私の女子力と主婦力をナメてもらっちゃー困るのよねぇ……。なんてったって私は、料理・炊事・洗濯・掃除……生活に関わる仕事すべてを完璧にこなしているんだからっ!!」
そんな真偽定かでないことを偉そうに言ってふんぞり返ってみせるが、大抵の場合は空回りするという見栄っ張りな性格なのだ。
そう、こんなふうに……。
「……主婦力はわかったけど、女子力は?」
「……いいわ、教えてあげる。葵が夜仕事から帰ってきたらね、私はバッチリメイクがキマッた姿で玄関で出迎えて、こう質問するの。『先にご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・しっ?』ってね!」
・・・
「おい、そのネタけっこう古いぞ」……と心の中でツッコミながら引きつり笑いを浮かべる咲子を置いてけぼりにして、綾乃はますますヒートアップする。
「それにね……ベッドの中でだって、私は葵のことをいつもドキドキさせっ放しで、飽きさせることなんてありえないんですもの!」
「……さいでっか」
「早く帰って今夜も、私のエロティックな魅力にトロけちゃってる葵の顔が見たいわぁーっ!」
「今日って確か桐矢くん、会社休みだよね? フリーの仕事は調子良くいってるの?」
華麗かつ完全にスルーをキメた咲子だが、葵がフリーランスで仕事を始めたことを社内で知っているのは咲子だけなのだ。
「うん、会社が休みの日はもっぱら家で個人の案件に没頭してるよ。最近は一日中営業に走り回るなんてこともなくなったし、個人サイトとか顧客の口コミなんかで評判も広がってるみたいで、新規の依頼もたくさん舞い込んでくるようになったの」
今度だけは見栄ではなく、空回りもしない。
最愛の彼がこれまで以上に充実し、何もかもが順風満帆なのは紛れもない事実だからだ。
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