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思わず眩暈と吐血を起こしそうになっている綾乃に向かって、葵は姿勢をかがめて唐突に言った。
「……さて、お嬢様」
「お、『お嬢様』……っ?」
「先にディナーになさいますか? バスタイムになさいますか? それとも……」
綾乃は瞬く間に顔を真っ赤に火照り上がらせて、慌てて答える。
「お、お風呂になさいますっ!!」
「あなたにします」……なんて、冗談でも軽々しく答えられるような余裕すらその美しさに奪われた綾乃は、真っ先にバスルームへと飛び込むのだった。
「……『コーヒーにしますか』って聞こうとしただけなのに……なんだアイツ」
「お嬢様」の行方を眺めながら、白い執事は首を傾げた。
——しばらくした後、お風呂から出てホカホカの綾乃がリビングに戻ると、そこには……キッチンに立つ執事がいた。
「……あれ、まだ着替えてなかったの?」
「当たり前じゃないですか、お嬢様。身だしなみは紳士の心得なんですから」
もはや完全に執事になりきっている。
……というよりも、執事の格好に違和感がなさすぎてもはや執事にしか見えないと言うべきか。
そして……
「(仕方ないなぁ、私もいっちょ『お嬢様』役に徹してあげようじゃないのっ)」
とうとう格好だけでなく話し方まで執事のままの葵のことを、綾乃はだんだんと面白くなってきてしまうのだった。
「ところで執事さん、今夜のメニューは何なのかしらぁ?」
平皿に料理を盛り付けている後ろ姿に話しかけながら、綾乃はここぞとばかりにソファーにもたれかかってくつろぎ始める。
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