0人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
月曜日の昼休み。私と桜ちゃんは、いつものように机を合わせてお弁当を食べていた。話は昨日投稿したばかりの、「勇者犬・ココの冒険」の閲覧状況についてだ。私はお弁当のおかずを箸でつつきながら、ため息をついた。
「朝の時点でGoodの数、たった3だったね。思ったより伸びないな……」
「Good」とは、作品を読んでくれた人が送ってくれるマークのことだ。桜ちゃんは箸で自分のお弁当から卵焼きをつまむと、私の口まで運んでくれた。
「まだ最初じゃない。きっとお話を更新していくうちに、Goodの数も増えていくよ」
私は桜ちゃんのくれた卵焼きを、口に入れてもぐもぐと咀嚼した。優しい卵の味が口中に広がって、なんだか元気が湧いてきた。
「だよね! そうと決まれば今週分の更新に向けて、挿絵を描くぞ!」
私が椅子から立ち上がると、先生から「平野さん。お昼休みだから、静かにね」と注意されてしまった。恥ずかしさで顔を赤くした私を見て、桜ちゃんはうふふと笑った。
その日の学校が終わると、私は走って家に帰った。部屋のタブレットを起動させながら、私は今週投稿する挿絵の場面を思い浮かべた。ココが友達の猫・ミミに、裏切られるシーンだ。
頭の中のイメージがなくならないうちに、急いでタッチペンを持った手を動かす。しかしココの茶色い毛並みが思うように描けず、とうとう私はペンを机の上に放り投げた。
やっぱり私には描けないと、心の中から弱音が聞こえてきた。私は目を閉じると、両手で頬を強く叩いた。私が桜ちゃんの足を引っ張るわけにはいかないと、自分に言い聞かせる。
その後私は、日が暮れて真っ暗になった部屋で絵を描き続けた。タブレットの画面から光るブルーライトだけが、私を寂しく照らしていた。
そして、その週の日曜日。私たちは「勇者犬・ココの冒険」第2章を更新した。桜ちゃんの最高の物語に私の挿絵が入った、渾身のお話だ。私は自室で一人タブレットを見つめ、更新後の読者の反応を確認していた。
最初のコメントを投稿しよう!