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桜ちゃんに一緒に小説を作ろうと誘われた時、私は本当にうれしかった。でも実際に二人で活動をしていくなかで、私は桜ちゃんとの実力差を痛感した。桜ちゃんの魅力的な文章を、私の下手な絵が邪魔していると思ったのだ。
私は、桜ちゃんにもっと絵が上手い人と組んでほしかった。でも私が普通にやめたいと相談しても、自分の才能に無自覚な桜ちゃんは、優しい言葉で私を引き留めるだろう。
だから私は、桜ちゃんと離れるきっかけがほしかった。私は桜ちゃんに内緒で、小説投稿サイトに別のアカウントを作った。そして桜ちゃんと公園で会った月曜日。先に公園に着いた私は、桜ちゃんを待っている間に、自分のタブレットからあのコメントを書き込んだ。
私は知らない誰かにコメントを書かれたふりをして、あの画面を桜ちゃんに見せた。私はコメントにショックを受けたふりをして、桜ちゃんと距離を取った。
桜ちゃんの想像通り、全ては私の自作自演だった。不器用でよくない方法だと分かってはいたけれど、私にはこういうやり方しかできなかった。
自作自演だと分かっていても、自分で自分の作品を傷つけた時、私の心は本当に痛んだ。昔読んだ本に「言葉は刃物だ」と書かれていたことを、私は思い出した。悪い言葉を他人に向けることは絶対にダメだけど、自分自身に向けることもやめた方がいいと、私は心から理解した。
なにより私は、こんな身勝手なやり方に桜ちゃんを巻き込んでしまったことが、本当に心苦しかった。私は心の底から、桜ちゃんに謝りたいと思った。そしてできるなら、もう一度仲直りがしたかった。
私は涙が落ちたタブレット画面をティッシュで拭くと、傍にあったペンをぐっと握った。そして腕で目の涙を拭うと、一心不乱にペンを走らせた。胸から溢れてくる色んな気持ちを、私はすべて絵に込めた。
私はピンク色のリュックサックにタブレットを入れて背負うと、勢いよく部屋を出た。玄関でお母さんに「桜ちゃんに会いに行ってくる!」と叫ぶと、返事も待たず、私は家の外へ飛び出した。
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