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外はもう夕暮れで、少し肌寒かった。空はどんよりと曇っていて、太陽は見えない。桜ちゃんと公園で別れた日と、同じような天気だった。私の頭の中で、雨の公園での記憶がフラッシュバックした。
傘を持っていった方がいいかもしれない、と私は一瞬迷った。けれど一秒でも早く桜ちゃんに会いたくて、私はそのまま道を走り出した。
徒歩15分の桜ちゃんの家までの道を、私は全力で駆けた。肩に背負ったリュックサックの中で、タブレットがガタガタと揺れている。息を弾ませながら、私はさっきタブレットで描いた絵のことを思い出した。
一度は離ればなれになったココとミミが、握手して仲直りをしている姿。そしてココたちの両端で、私と桜ちゃんが笑っている姿も、描いた。
誰もいないまっすぐな通学路を、私は懸命に走った。強い風がびゅうびゅうと、私の顔に吹き付ける。息が、苦しい。でも、ここで立ち止まるわけには、いかないんだ。
私は両手の拳をぎゅっと握ると、「リライトしたい!」と大声で叫んだ。物語の中のココとミミの関係を、自分の卑怯な心を。そして、桜ちゃんとの友情を。ここで終わりになんてしたくない。だからもう一度、書き換えたい。私の声は曇天の空に、大きく響いた。
私は桜ちゃんともう一度、「勇者犬・ココの冒険」を作りたい。
走って、走って、走って。ようやく私は、桜ちゃんの家の前までたどり着いた。肩で息をしながら、私は大きな声で「桜ちゃーん!」と言った。すると、庭に面した1階の部屋のカーテンが開いた。窓の向こうには、驚いた表情の桜ちゃんが立っていた。
私はリュックサックからタブレットを取り出すと、急いで画面を起動した。そしてタブレットを両手で掲げると、桜ちゃんに向けた。その時だ。それまで分厚い雲に隠れていた太陽が突然現れて、私と桜ちゃんを、ぱっと照らした。永遠に思えるオレンジ色の世界の中で、私と桜ちゃんはじっと見つめ合った。
桜ちゃんは私が描いた絵を見ると、目を見開いて、一瞬泣き出しそうな顔をした。けれどすぐ笑顔になると、窓を開けて、一目散に私に駆け寄ってきた。そんな桜ちゃんを見た私の瞳から涙が、うれし涙が溢れた。
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