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暗闇に溶け込む
ビー ビー ビー ビー ビー
「此方、三番隊、隊が壊滅状態の為、至急応援を頼む。」
「ハァーーー。千晴、行こっか。壊滅状態とか何があったんだよ。」
俺に覆いかぶさっていた伊織は、大きな溜息をつくと俺の腕をとって起き上がらせた。
「二番隊伊織、千晴向かいます。」
手慣れた手つきで、お仕事用の服に着替えた俺たちは応援に向かった。
「了解。仕事内容と現場の状態を送る。」
スマホにきた内容によると、ヤクザの抗争の鎮痛化をしきれず、もう5人ぐらいしか動ける人がいないらしい。
ああ、ここで俺の家の裏事情を説明しよう。一言で言うと裏警察って感じかな。表の警察が対処しきれなくなった事件とかを請け負っている。もちろん、表向きは夜桜財閥っていう、有名企業なんだけどね。
大体の裏の仕事は体を張るものだ。ヤクザの抗争はまだ可愛いもので、暗殺者とやり合うのとかだとプロだからキツい。だから、俺らは幼い頃から特殊訓練を受けている。うちでは、殺し目的の依頼は受けていないが、守るものがあるから、どうしても殺さないといけないという事態になる可能性がある。
だから、そういう訓練も一応させられる。
こんなお仕事をしているからこそ、俺たちにははっきりした優先順位がある。
自分にとって、1番を守る為なら、俺も相手を殺すという選択をするだろう。
だけど、俺は命を奪って罪悪感に苛まれるなんて嫌だから、誰よりも強くなろうと思うんだ。強くなったら、相手を殺さずに抑え込めると思うから。
俺は命を大切にしている善人なんかじゃない。自分の為にしていることだから。
**************
「二番隊伊織、千晴到着した。鎮痛化を始める。」
「了解。残っている三番隊が中央にいるから、2人は左右に分かれてくれ。」
「「了解。」」
「伊織、俺は右に行っているから、左よろしくー。」
「わかった。」
「おらぁ、ここは俺らの島になるんだよっ、出てけよっ。」
「あんだとこらぁ、出てくのはお前らの方に決まってんだろっ。」
うわぁ、めんどくさっ。ガラ悪。
「はーい、みなさーん。抗争はおわりですよー。」
声を張り上げて、注意を引くと、みんなしてギロッて睨んできた。
きゃー、こわーい。
「お前みたいなガキが来る所じゃねえよ。早く帰んな。」
「ぼくちゃん、家でママが待ってるよ?怪我したくなかったら、とっとと行け。」
「ぎゃはははは。お前煽り過ぎだろ。」
ハァ、いっちょやりますか。
俺が動かずに、構えたのを見て、ニヤニヤしながら1人が近づいてきた。
「何?俺らとやるつもりー?しょうがねえから相手してやる、よぉ」
ブンっと振りかぶってきた腕を掴んで、一発お腹に入れると、背負い投げする。気絶した男を放って、周りにいる奴らを見ると、唖然としていたが、俺を睨みつけると、次々に向かってきた。
「1人のしたぐらいで、調子に乗るなよ、ガキがっ。」
俺の動きを見ていたのに、自分たちの方が弱いのがわからないぐらいの雑魚かよ。人数多いからって、調子に乗ってんのはお前らの方じゃん。
次々に向かってくる奴らに蹴りを入れて、後ろにいるやつを巻き込んで、飛ばす。拳を避けて、その拳が誰かに当たるように誘導する。大勢を1人で相手するときはこんな感じで最小限の動きで闘う。
なんだかんだ言って、俺は闘うのが好きなのかもしれないと思う時がある。体が熱くなって、高揚感が体を支配する。
「な、何なんだ、お前。化け物かよ。」
怯えたように、残り少なくなった奴らが見てくる。
どうやら、俺の闘う姿は怖いらしい。血を被って真顔で闘うから、迫力が出るとか。でも闘う前までは、正気のない、死んだような目で笑うから余計に恐怖を煽られるのだとか。さらに、真っ黒な服装だから暗闇に溶け込んで、どこに現れるかわからないのだとか。
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